「相続直前のタワマン節税」が2026年に終了へ?新ルール「相続発生5年以内の取得は時価評価」について税理士が徹底解説

相続直前に不動産を購入し、実勢価格と路線価の乖離を利用して相続税を圧縮する手法は、富裕層のあいだで広く活用されてきました。しかし、最新の税制改正方針(2026年度税制改正)では、この節税スキームに正面からメスが入る見通しです。本記事では税理士の川口誠氏が、不動産オーナーが直面する「5年ルール」の正体と、2027年の適用開始までに検討すべき防衛策を解説します。
目次
「路線価評価」から「購入価格ベース」へ…相続直前の駆け込み購入が封じられる仕組み
今回の改正案(税制改正大綱)には、以下のとおり記載されています。
「被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する。上記の課税時期における通常の取引価額に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の 100 分の 80 に相当する金額によって評価することができることとする」
これまで、日本の相続税実務において、不動産は路線価(公示地価の約80%)や固定資産税評価額(建築費の約50〜70%)で評価されるのが原則でした。特にタワーマンションや都心の収益物件においては、市場で取引される時価(実勢価格)と、税務上の評価額のあいだに大きな乖離が生じます。
たとえば、1億円で購入したマンションの相続税評価額が3,000万円になれば、差し引き7,000万円分の資産を圧縮できたことになります。これが不動産による相続税対策でした。
しかし、今回の改正案により、相続発生前5年以内に取得した貸付用不動産(アパート・マンション・貸ビル等)については、原則としてこの路線価評価が否定され、代わりに通常の取引価額(時価)で評価することが義務付けられます。
これまで時価(実勢価格)と相続税評価額(路線価等)の乖離を利用した節税は、いわば税制の「グレーゾーン」で成立していました。今回の改正で5年という明確な基準が設けられることは、納税者にとっての予見可能性を高めるという点では一歩前進といえるかもしれません。令和4年の最高裁判決(財産評価通達総則6項の適用)のように、国税庁の裁量によって「後出しジャンケン」的に否認されるリスクがありましたが、ルールが明文化されることで、どこまでが許容されるかの境界線が引かれたことになります。
もちろん、5年を超えて保有していれば絶対に総則6項が適用されないという保証があるわけではありません。しかし、5年の継続保有という要件を満たしている場合、「租税回避の意図が著しく顕著である」といった特段の事情がない限り、国税庁が総則6項を繰り出して更正を行う可能性は極めて低くなったといえるでしょう。
建物評価には「逆転現象」のリスクも
一方で、この改正案には実務上、大きな疑問符がつく箇所があります。それは、取得価額をベースに「100分の80」で評価できるとしている点です。明らかに、土地の路線価が公示地価(時価)の80%程度であることを意識した設定でしょう。しかし、建物はどうでしょうか。建物は本来、固定資産税評価額(建築費の約50〜70%)で評価するのが通例です。この新ルールを建物にまで適用し、取得価額の80%で評価することになれば、従来の建物評価よりも高い評価額になってしまう逆転現象が起こり得ます。
また、改正案にある「地価の変動等を考慮して計算した価額」という表現も極めて曖昧です。全国一律の指数を用いるのか、あるいは地域ごとの公示地価の変動率を用いるのか。この指数の計算方法次第では、実際の市場価格と乖離した評価を押し付けられるリスクがあり、事務負担の増大も懸念されます。
なぜ「5年」なのか?既存オーナーも無視できない、過去に遡って適用されるリスク
なぜ5年という期間が設定されたのでしょうか。ここには、近年の国税当局による租税回避への厳しい姿勢が反映されています。
相続の直前(1〜3年程度)に不動産を購入するのは、明らかに相続税を減らすという主観的な意図が強いとみなされます。一方、10年、20年と保有していれば、それは通常の資産運用や生活の場としての保有であり、節税だけが目的とは言い難くなります。今回の改正案では、その意図を線引きする客観的な区切りとして、5年が適当と判断されたのではないでしょうか。
また、実勢価格との連動性も重要な要素です。不動産の価格は常に変動するため、10年以上前の取得価格を現在の相続評価に用いるのは合理的ではありません。しかし、取得から5年以内であれば、当時の取得価額(売買代金)が現在の時価を反映している有力な証拠として機能しやすいため、評価の妥当性を担保しやすいという背景があると考えられます。
「数年前に買ったから安心」ではない
今回の改正案は、5年という数値基準(形式基準)を設けることで、予見可能性を高めつつ、駆け込み的な節税を網羅的に封じる狙いがあります。ここで既存の不動産オーナーが注意すべきは、「遡及適用のリスク」です。仮に税制改正が2026年に行われ、2027年1月から施行されるとしましょう。施行日以降に発生した相続については、施行日前に購入した物件であっても、取得から5年以内であれば新ルールの対象となる可能性もあります。
「数年前に購入済みだから安心」と思っていた物件が、相続発生のタイミング次第で突然、時価評価に跳ね上がる。このリスクを念頭に、現在のポートフォリオを見直す必要が出てくるかもしれません。
「1年間の猶予期間」を活かす…相続時精算課税制度による“評価額の早期固定”
2026年度の改正が現実味を帯びるなか、2027年の施行(予定)までの1年間が、富裕層にとって最後の重要な窓口となります。ここで注目すべきが、「相続時精算課税制度」の活用です。
相続時精算課税制度とは、原則60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ贈与を行う際、2,500万円までの贈与税を非課税(超えた分は一律20%)とし、その贈与財産を相続時の財産に加算して精算する制度です。
この制度のメリットは、相続時の評価額が、贈与時の価額に固定される点にあります。もし、改正ルールの施行前(2026年中など)に、現行の路線価評価で子どもに不動産を贈与し、相続時精算課税を選択しておけばどうなるでしょうか。将来相続が発生した際、その不動産は贈与時の低い評価額で計算されます。改正後の5年ルールは、あくまで相続財産としての不動産評価を縛るものですが、すでに贈与を終えている財産については、贈与時の評価ルールが適用されるため、実質的な「評価額の早期固定」が可能になる計算です。
ただし、これには不動産取得税や登録免許税などのコストも伴います。単なる節税額だけでなく、トータルの移転コストを精査するシミュレーションが必要になってきます。
「自社地への新築」は対象外?制度の穴と、これからの“健全な”相続対策のあり方
今回の改正案には「対価を伴う取引により取得又は新築をした」という文言があります。では、すでに所有している土地(自社地や先祖代々の土地)に、賃貸物件を新築する場合はどうなるのでしょうか。
外部から土地と建物を購入する、あるいは建売物件を取得する場合は5年ルールの対象ですが、所有地に建てるケースにおいて、土地の評価までが5年ルールに引きずられるのか、あるいは建物部分の建築費のみが対象となるのかは議論の余地があります。建物については取得(新築)から5年以内であれば時価(建築費ベース)評価となる可能性が高いものの、古くから持っている土地の評価まで時価に引き上げられることは、制度の趣旨から外れるとの見方もあります。
しかし、過度な制度の穴探しは禁物です。今回の改正案が示唆しているのは、出口(相続)直前のテクニックによる節税時代の終焉です。これからの健全な相続対策は、以下の3点に集約されるでしょう。
1.早期着手:5年ルールの圏外に出るため、10年、20年スパンでの資産承継を計画する。
2.収益性の重視:節税による評価減だけを目的とせず、増税分を補って余りあるキャッシュフローを生む物件を選別する。
3.生前贈与の加速:相続時精算課税や暦年贈与を組み合わせ、財産そのものを早期に次世代へ移転する。
「不動産を持てば相続税が下がる」という思考を捨て、税制の大きな転換点に備える必要があります。まずはご自身の所有物件が、取得から何年経過しているか、いま相続が起きた場合の評価額はどうなるのか、現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。具体的な対策や個別事案への影響については、税理士等の専門家と連携しながら、万全の準備を進めていくことをお勧めします。
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