中古アパートにつきもの「騒音・生活トラブル」…構造的弱点を克服し、長期入居を実現する「防音・付加価値」戦略【一級建築士が解説】

築年数が経過したアパート、特に木造や軽量鉄骨造の物件において、入居者の不満の第1位は「音」の問題です。空室対策として内装を綺麗にするだけでは、入居後の早期退去は防げません。本記事では、三澤智史が一級建築士の視点から、大規模な中古物件の構造上の弱点をどう補強し、現代の入居者が求める静穏性とプライバシーを確保して資産価値を高めるかを解説します。
目次
早期退去が続いた築30年アパート、原因は…
築古の木造アパートでは、壁や床が薄く防音性能が低い物件が多く存在します。現在の建築基準法や性能表示制度に比べ、防音性に対する配慮が必ずしも十分ではない傾向にあったためです。
ある築30年の木造アパートでは、隣室の生活音や上階の足音が明瞭に聞こえるといったクレームが、継続的に寄せられました。入居時に騒音についての説明が不十分だったこともあり、アパートのオーナーが生活音について掲示板で注意喚起を行いましたが、ほとんど効果がありません。
その結果、全20戸のうち1年間で6戸が退去し、退去率は30%ほどにまで達しました。早期退去の理由は、騒音が34.1%を占める統計もあり、この事例は典型的なパターンであったと考えられます(※1)。結局、このオーナーは数百万円の追加費用を投じて防音改修を行うことになりました。退去による機会損失と改修費を考えれば、事前の対策がいかに重要かがわかります。
コストを抑えつつ効果を発揮する「後付け防音」という選択肢
壁や床を解体してやり直すといった大規模なリフォームを行えば、防音性能は向上しますが大きなコストがかかります。しかし「後付け防音」なら、大規模な工事は不要で、コストを抑えながら防音効果を期待できます。
壁の遮音シート+石膏ボード
隣室とのあいだの壁が薄い場合、既存の壁の上から遮音シートを貼り、その上にさらに石膏ボードを重ねてクロスを仕上げる方法が効果的です。増し貼りした分だけ部屋の面積は狭くなりますが、これだけで遮音性能は著しく向上するでしょう。
壁を解体するような大掛かりな工事が不要なため、その分コストも抑えられます。
床の高機能クッションフロア・遮音マット
足音や物を落としたときの衝撃音が下階へ大きく響く場合、遮音等級の高いクッションフロアや、遮音マットを敷く方法があります。
天井高に余裕があれば、支持脚を立ててパーティクルボードや合板を敷く二重床がさらに効果的です。床を浮かせる分だけ天井高が低くなりますが、10cmほど浮かせるだけで上階から下階への衝撃音を軽減できます。
天井のグラスウール・防音シート
上下階の衝撃音に対して、天井の補強も効果的です。アパートの多くは、天井ボードと上階の床とのあいだに空間があるため、グラスウールなどの吸音材を天井ボードの上に敷くことで衝撃音を軽減できます。
しかし、グラスウールを敷くには天井を解体しなければいけません。そのような大掛かりな工事でお金を掛けられない場合は、天井ボードに防音シートを貼り、もう一枚ボードを増し貼りする方法でも、ある程度の防音効果は発揮できるでしょう。
テレワーク時代にも「選ばれる物件」へ…実現可能な付加価値戦略
近年の入居者ニーズとして、テレワークに対応した通信環境の整備や、遮音性に優れた作業空間作りも必須です。実際、無料のインターネットは、全国賃貸住宅新聞によると、入居者に人気の設備のなかで第1位という統計もあります(※2)。
インターネットの導入には、建物に光回線を引き込み、共用部から各戸へ分配する方法があります。まず、道路側からアパートの電気室などに光回線を引き込み、共用部やその先の各住戸へ配線する手順です。木造アパートであれば、天井ボードと上階の床とのあいだにスペースがあることが多いため、天井に設けてある点検口を活用して各戸へ配線できます。
テレワークのための作業空間の設計には、壁や天井に吸音材パネルを貼って隣室への音漏れを抑制する方法があります。または、机を窓際や壁際に設置し、厚手のカーテンやローパーティションで部屋を仕切れば、半個室化できプライバシーの確保も可能です。
これらの工夫によりテレワーク向けの物件として付加価値を高め、周辺相場より高い家賃設定も可能になり、入居率を維持できる可能性があります。
築古の弱点を克服するために…「防音・通信」のセルフ診断
中古アパート経営において、維持管理コストを無理に抑えたり、外観だけの表面的なリフォームに注力したりするあまり、防音性能が後回しにされてしまうケースは多いです。
しかし、防音性能が低いことによる入居者からのクレーム対応の手間や、そのあとの対策費用を考えると、多少の費用を掛けてでも早期に対策したほうが、結果的に費用を抑えられることも。テレワークの需要に配慮した静穏性やプライバシーの確保とともに、検討が必要です。
以下のチェックリストにより、アパートの運用に問題がないかどうかチェックしましょう。

出所:筆者作成
築年数を経たアパートであっても、構造的な弱点を的確に補強することで、現代の入居者が求める「静かな生活環境」に限りなく近づけることが可能です。「隣人の気配がストレスにならない」という合格ラインをクリアすることは、既存物件の再生において十分に現実的な目標となります。
「音が気になるから引っ越そう」という入居者の離脱を一人でも減らすこと。その実直な積み重ねが、地域の中で埋没することのない、持続可能な資産へと物件を育てていきます。
〈参考〉
※1 株式会社CHINTAIの統計
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000144.000003782.html
※2 全国賃貸住宅新聞の統計
https://www.zenchin.com/news/content-1258.php
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