「中古アパート投資」の資産価値を再定義…建築費高騰が生んだ「再調達原価」の視点と、インフレ下で建物の価値を適正に見極める方法

新築の建築単価が高騰するなか、中古アパートの「価値」の測り方にパラダイムシフトが起きています。かつての「築年数が経てば建物価値はゼロ」という画一的な考え方は、もはや現代の不動産実態を捉えていません。本記事では、いまのインフレ局面において「再調達原価(いま同じものを建てたらいくらかかるか)」という考え方が中古物件の価格をどう下支えしているのでしょうか。一級建築士で、自らも不動産投資家である三澤智史が、経年劣化を考慮してもなお残る「建物の本源的価値」の正しい評価方法を紐解きます。
目次
10年前に1億円で建てたアパート、いま建て直すと「1億3,000万円」
積算価格とは、土地の価格に現時点で建物を新たに建てた場合にかかるコスト、すなわち再調達原価を加算し、そこから経年劣化による減価分を差し引いて算出する価格のことです。この計算方式において、近年の建築費高騰は積算価格を大きく押し上げる要因となっています。
国土交通省の建設工事費デフレーターによると、木造住宅の建設工事費は2020年を100とした場合、2025年には122.3の水準まで上昇しています(※1)。
つまり、5年前に1億円で建てられた木造アパートは、いまから建て直すと1億2,000万円ほどの費用がかかる計算になります。再調達原価そのものが膨らんでいるため、経年劣化による減価を差し引いても、積算価格の下落幅が以前より小さくなっている状況です。
中古アパートへの投資を検討する際は、表面的な築年数だけで価値を判断するのではなく、現在の建築コストを元にした再調達原価の視点で積算価格を捉え直すことが、物件の本質的な価値を見極めるうえで重要となります。
帳簿上の価値よりも実態価値が高く評価されやすい物件とは
不動産鑑定士が中古アパートを評価する際、築年数と並んで重視するのが「修繕履歴」です。外壁塗装や屋根の防水工事、給排水管の更新といったメンテナンスが、いつ・どのような内容で実施されたかを記録した書類は、建物の実態価値を判断するうえで欠かせない資料になります。
法定耐用年数は木造アパートで22年と定められていますが、これはあくまで税務上の指標です。適切なメンテナンスが継続的に行われた建物は、法定耐用年数を超えても良好な状態を維持できるケースが多く、鑑定評価においては「経済的耐用年数」として実態に即した残存年数が認められることがあります。つまり、修繕履歴が充実している物件ほど、帳簿上の価値よりも実態価値が高く評価される余地が生まれるでしょう。
一方、修繕履歴が存在しない、あるいは不明瞭な物件は、将来的に大規模修繕が必要と判断されます。築20年を超える物件であれば、外壁・屋根・設備の更新状況を売主や管理会社に確認し、可能であれば書面での提示を求めることが望ましいといえます。
中古アパートの価値は築年数だけでは測れません。どれだけ丁寧に維持管理されてきたかという視点が、長期保有における収益安定性だけではなく、将来の売却価格の両面に直結します。
地価上昇局面で差が出る「土地の資産価値割合が高い物件」
インフレ局面において、不動産が資産保全手段として注目される背景には、土地という実物資産の存在があります。現金や債券とは異なり、土地はインフレが進んでも価値が目減りしにくい性質を持っており、地価が上昇するときは資産価値そのものが高まりやすいです。
国土交通省の地価公示によると、2025年の全国平均地価は住宅地・商業地ともに4年連続で上昇しており、都市部だけでなく地方中核都市においても上昇傾向が広がっています。
こうした地価上昇の恩恵を受けやすいのが、土地の資産価値割合が高い物件です。敷地面積に対して建物の延床面積が小さい、いわゆる低容積率の中古アパートは、土地としての資産価値が相対的に大きくなります。建物の老朽化が進んでも土地値として一定の評価が維持されやすい傾向にあるのです。
これは出口戦略において有利に働きます。売却時に土地値が担保となることで買い手がつきやすくなるほか、更地化して売却や建て替えといった選択肢も現実的に検討できるからです。中古アパートを選ぶ際は、利回りや築年数だけでなく、インフレヘッジとしての土地価値を冷静に見極める視点を持つことが、長期的な資産形成につながります。
築年数より「実態の強さ」…インフレ時代における中古アパートの評価基準
インフレ・建築費高騰の時代における中古アパートの価値は、表面的な築年数や利回りだけでは正確に測ることができません。
- ◎再調達原価の上昇による積算価格の下支え
- ◎修繕履歴が示す建物の実態的な耐用年数
- ◎土地の資産価値が生み出すインフレヘッジ効果
これら三つの視点を組み合わせることで、はじめて物件の実態に則した価値が見えてきます。
出口戦略を考えたとき、重要になるのは「売却時にいくらで売れるか」という根拠を持って答えられるかどうかです。修繕履歴が充実していれば経済的耐用年数の延長が期待でき、土地の資産価値が高ければ建物価値が低下しても土地値として評価が維持されます。
さらに建築費が高止まりしている現在では、同等の建物を新築するコストが高いため、中古物件の相対的な割安感が買い手にとっての購入動機となりやすい点も見逃せません。
築年数という「時間の古さ」ではなく、管理の質・土地の力・再建築コストという「実態の強さ」で物件を評価する視点こそが、インフレ時代の中古アパート投資において求められる本質的な判断軸となります。
〈参考〉
※1 国土交通省 建設工事費デフレーター
https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-other-2_tk_000362.html※2 国土交通省 【令和7年9月17日】 令和7年都道府県地価調査を公表しました
https://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_010466.html
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001908552.pdf
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