金利上昇・リフォーム費高騰時代の中古アパート投資…インフレ局面に負けない「真に優良な物件」の見極め方【不動産鑑定士が解説】

金利上昇や、建設部材の高騰が続く現在、中古アパート投資を取り巻く環境は厳しさを増しているように見えます。しかし、こうした不透明な局面だからこそ、徹底した物件選定を行うことで他と差をつける手堅い経営が可能になるのです。今回はティー・コンサル株式会社代表取締役であり、元銀行員の経歴を持つ不動産鑑定士・小俣年穂氏が「プロの物件選定基準」をわかりやすく解説します。目先の利回りや見栄えだけの修繕に惑わされず、建物の本質的なポテンシャルと立地の底力を見極めていきましょう。
目次
不動産投資の変革期、今後求められるのは「能動的なオーナー経営」への転換
インフレが続く昨今においては、将来の見通しが極めて重要となります。不動産投資の勝敗は、その不動産の収益力にオーナー自らが能動的に関与し、いかに維持・向上できるかで決まるといっても過言ではありません。
たとえば、規模がまったく同じアパートAとBがあるとします。
- 物件Aのオーナー:管理会社に任せきりで一切関与しない。結果はよくて現状維持、最悪の場合は収支が悪化します。
- 物件Bのオーナー:不動産市況を常に把握。インフレ局面を見据え、更新時の家賃改定交渉を有利に進められる「定期借家契約(※)」を戦略的に導入。さらに無駄な経費の削減にも積極的に動きます。
※ 定期借家契約は、居住用アパートでは客付け時の条件交渉などリーシングのバランスに注意が必要です。
この「経営力」の差が、購入後の収支を大きく変えます。当然ながら収支が良好な物件Bは、最終的な売却(出口)時にも、物件Aに比べて高く売却することが可能になるわけです。
従来の日本における不動産投資は、オーナーの力量による影響がさほど大きくない時代が続いていました。政策によって金利は低く抑えられ、家賃もおおむね変動しなかったからです。
しかし近年、政策金利は上昇傾向にあり、都市部を中心に家賃の上昇傾向も見られるようになってきました。一方で、水道光熱費や固定資産税などの費用面も上昇基調が継続しています。
金利上昇分をカバーするためには、一義的には家賃の上昇が不可欠です。コストの上昇分を適切に家賃へ反映させていくプロセスは、不動産経営において当然の流れといえます。物件Aのように、他人任せで家賃交渉の手間を惜しんでいては、経営に行き詰まるでしょう。
だからこそ、過去の推移や周辺競合のデータから将来の家賃を予測する手腕が欠かせません。これから不動産投資を行う場合も、「購入後に家賃を上げていけるか」「そのためにどんなアプローチを取るか」という未来を見通す戦略性が問われているのです。
鑑定士が見る「3つの利回り」
不動産投資では「利回り」に着目して購入するケースが多いでしょう。しかし、この言葉の定義には注意が必要です。
- 1.表面利回り
一般的に目にする指標です。これは満室状態における年間家賃を不動産価格で割ったもの(年間満室想定家賃÷不動産価格)に過ぎず、投資の実態を示しているとはいえません。 - 2.NOI(運営純利益)利回り
満室を前提とせず、実際の空室リスクや募集経費、固定資産税などの公租公課(税金)、原状回復費などの運営経費をすべて差し引いた「リアルな純収益」をベースに計算します。 - 3.NCF(ネットキャッシュフロー)利回り
最も不動産経営の実態に近い収支を表す指標です。上述のNOIに敷金などの運用益を加算し、さらにCAPEX(大規模修繕の積立金や資本的支出)を控除して求めます。なお、不動産鑑定評価における「収益価格」の試算でも、このNCFに対して利回りを適用して算出しています。
一見、表面利回りが高く見える物件であっても、空室率が50%に達していたり、膨大な修繕・募集コストを要したりするのであれば、NCF利回りは極めて低い水準になります。
裏を返せば、現状のNCF利回りが低くても、それは前オーナーの経営が芳しくなく、家賃が相場より低く放置されているだけかもしれません。つまり、適正家賃に変えていくことで、利回りを劇的に向上させることも可能なのです。表面利回りに左右されず、その不動産が持つ「真の収益力」を見極める能力によって、投資の成否はわかれます。
リフォーム高騰・融資難を突破する「建物の目利き」
不動産の構造は、大きくわけて「木造」「鉄骨造(S造)」「鉄筋コンクリート造(RC造)」の3つに分類されます。中古物件を検討する際、最も重要なポイントとなるのが、構造ごとの「法定耐用年数」と「築年数」の関係です。
法定耐用年数は、木造22年、S造19〜34年(骨格材の厚みによる)、RC造47年と定められています。多くの金融機関は耐用年数を建物の限界と捉えており、「法定耐用年数 - 築年数 = 融資期間」を原則としています。
元銀行員の視点からいえば、この原則が存在するため、耐用年数超えの築古物件はどれだけ表面利回りが高く見えても「そもそも融資の土台に乗らない(銀行から融資が引けない)」可能性が高くなります。融資期間が極端に短くなるか、あるいは融資不調に終わるため、自己資金を潤沢に用意できない限り、購入のスタートラインにすら立てないのが現実なのです。
ただし、近年の建物は性能が進化しています。そのため、耐用年数に縛られず、住宅性能評価における「劣化対策等級」によって融資期間を延ばす金融機関も増えてきました。この等級は3段階で評価され、3級が最高性能を意味します。銀行によっては「劣化対策等級が2級以上であれば、木造でも最長35年の融資を認める」といった柔軟な姿勢を見せるケースも出てきています。
インスペクションと修繕履歴で「隠れた欠陥」を見つける
中古アパートの購入にあたっては、専門家による「建物状況調査(インスペクション)」が実施されているか必ず確認しましょう。構造部分や屋根の劣化を専門家が調査するため、目に見えない建物の不具合を事前に把握できます。一般の投資家が建物の状態を正確に見抜くことは困難なため、ここにかかる調査費用を惜しまず積極的に活用することが、リスクヘッジに繋がります。
加えて、「修繕履歴」の有無も確認するようにしましょう。適切な管理がなされている物件には、「いつ、なにを、いくらで修繕したか」という客観的なデータが残されています。
これは購入時だけでなく、自分がオーナーになってからも同様です。修繕履歴を綺麗に整理しておくことは、将来の売却(出口)時において、次の買い手や金融機関に強い安心感を与え、スムーズな売却へと繋がります。
コストを抑える修繕方法と、見落としがちな「解体費」リスク
部材費や人件費が高騰する現代において、リフォームのコスト管理は不動産経営の生命線といえます。建物の躯体(骨組み)に問題がなければ、アパートの顔である「エントランス周り」を集中的に綺麗にするなど、コストを抑えつつ最大のリーシング効果(客付け効果)を狙う手法が有効です。
一方で、立地が抜群にいいのであれば、足場を組んでの外壁塗装や屋上防水、シーリング(隙間を埋める防水材)の更新といった「大規模修繕」を断行し、全面リニューアルによって家賃を大きく跳ね上げる戦略も選択肢に入ります。ただし投資額が嵩むため、「物件自体を相場より大幅に安く仕込めた場合」や「リニューアルによる収益向上が確実に計算できる場合」に限って実行すべきでしょう。
また、築古アパートを検討する際は、最終的に「解体して更地に戻す」という逆算の視点も忘れてはなりません。昨今の人手不足から解体費用も高騰しています。将来の解体費用を差し引いたうえで、その土地に「更地としての価値(底地価格)」がいくら残るかという点まで視野に入れておくことは、インフレ時代の防衛策となります。
どんな時代も空室になりづらい「立地の選び方」
不動産投資の世界では「最後は立地」とよくいわれますが、これは真理です。利回りという数字の判断だけに依存せず、土地そのものの調査を徹底的に行う姿勢が求められます。具体的には、以下の項目を確認しておきましょう。
〈土地の5大基本スペック〉
- 最寄駅からの徒歩距離
- 道路付け(公道か私道か、接道幅員[道路の幅]、接道の方角)
- 土地の地形(不整形地ではないか)
- 用途地域(建てられる建物の種類や容積の法的規制)
- 周辺施設(スーパー・病院・学校などの生活利便施設、および墓地やゴミ処理施設などの嫌悪施設の有無)
これらは購入後にオーナーの経営力でも変えることができない「物件の絶対的な基礎体力」となります。
都心高騰のいま狙うべきエリアは…
昨今、都心部の不動産価格や家賃が高騰しすぎた結果、都心から周辺都市へと人の流れが変わる現象が起きています。データを紐解くと、首都圏であれば神奈川県川崎市、埼玉県さいたま市、千葉県流山市など、都心へのアクセスに優れ利便性の高い周辺都市で人口増加が顕著です。これらのエリアでは、人口流入に伴って不動産価格や家賃の上昇が明確に始まっています。
都心部で起きた地価や家賃の変動は、時間差を置いて必ずこれらの優良な周辺都市へと波及していきます。不動産市況の変化に伴い、「人の動きがどう変わるか」を半歩先回りして見通すマクロの視点が、エリア選定において勝機をたぐり寄せるのです。
元銀行員×不動産鑑定士が考える「真に優良な物件」
金利上昇・インフレ局面における「真に優良な物件」とは、目先の表面利回りが高い物件のことではありません。
元銀行員の視点から見れば、それは「積算価格(担保価値)」が高く、金融機関から安定した融資を引き出せる手堅さを持った物件です。そして不動産鑑定士の視点から見れば、それはオーナーの能動的な経営によって「収益価格(稼ぐ力)」をどこまでも高めていけるポテンシャルを秘めた物件です。
不動産投資のゴールは、毎月のキャッシュフローを得ることだけではなく、売却を成功させることにあります。数年後あるいは十数年後に訪れる売却の瞬間に、次の買い手(第三者のオーナー)が同じように金融機関から融資を引いて買いたくなるスペック(耐用年数の残り、劣化対策等級、および立地の底堅さ)を保てているか。この「買い手目線の資産性」が、不透明な時代を勝ち抜く選定基準です。
表面的な数字の裏に潜む罠を見抜き、建物と土地が持つ本質を見極める目を養いましょう。インフレを追い風にする不動産経営への第一歩を踏み出せるはずです。
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