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中古アパートの手残りを増やす「土地・建物」の価格按分…税務調査で否認されない、安全に節税する方法【税理士が解説】

中古アパート投資、特に1棟丸ごと購入する際、その後のキャッシュフローを左右する極めて重要な「税務上の分岐点」があります。それが、売買代金の「土地」と「建物」への割り振りです。建物の割合を高く設定できれば減価償却費を多く計上できますが、客観的な妥当性を欠けば、税務署からの否認リスクを招きます。今回は、川口誠氏が税理士の視点から、高所得層のオーナーが適正な節税メリットを享受しつつ、健全な申告を行うための按分ロジックについて解説します。

「建物比率」を高めることで買主の手残りが増える理由

中古アパートの売買代金を土地と建物にどう按分するかは、単なる会計処理の問題ではありません。この比率が、買主・売主それぞれに対して複数の税務上の影響をおよぼすからです。

減価償却による所得税の圧縮

買主にとっての最大のメリットは減価償却費の増加による所得税節税です。土地は時の経過で価値が減らない「非償却資産」であるため、建物により多くの代金を配分して、毎年の経費(減価償却費)を増やすことで、不動産所得の圧縮につながります。特に給与所得や事業所得が高い高所得層のオーナーにとっては、課税所得を抑える効果が大きく、キャッシュフローの改善に直結します。

売却時を見据えた「税率の差」の活用

建物比率を高くすると、将来の売却時には「建物の未償却残高(取得費)」が少なくなるため、譲渡所得税が増加するデメリットも存在します。しかし、不動産を5年超保有したあとに売却する「長期譲渡所得」であれば、所得税・住民税を合わせた税率は約20%です。給与所得等に係る最高税率(所得税45%+住民税10%)と比べて大幅に低くなります。つまり、保有期間中に高い税率(最高55%)で節税した効果を享受しつつ、売却時の課税は低い税率(約20%)で済むのです。

融資利用時の「損益通算」への影響

土地取得に要した借入金の利子は、不動産所得の損失を給与所得等と損益通算する際に、その損失額に加算されてしまうというルールがあります。しかし、融資を利用して購入する場合、土地比率を抑えることで損益通算の制約を軽減することが可能です。建物比率を高くすれば、相対的に土地に帰属する借入利子が少なくなり、損益通算の制限をより小さく抑えることができるからです。

買主と利害が相反…売主にとっては建物比率が高いほど税負担が増える

なお、売主が消費税の課税事業者である場合には、建物比率が高いほど消費税の負担が増える点に注意が必要です。土地の売却は消費税非課税ですが、建物の売却は課税対象となります。売主側からすれば消費税を多く納める義務が生じるため、買主との利害が相反する局面です。

売買交渉においてこの点を把握したうえで按分の合意形成を図ることが、スムーズな取引の前提となることを念頭に置いてください。

税務署に否認されないための「3つの按分手法」

按分の方法には主に以下の3つの方法があります。

1. 売買契約書への明記
2. 固定資産税評価額の比率による按分
3. 不動産鑑定士による鑑定評価

それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、税務署に論理的に説明できる手法を選択しなければなりません。

1.売買契約書への明記

当事者間の合意を直接反映できる点でシンプルです。ただし、客観的な根拠から逸脱している場合や、合理的な経済実態とかけ離れた比率である場合には、後述の裁決(図表)のように税務署に否認されるリスクがあります。

2.固定資産税評価額の比率による按分

市区町村が定めた公的な評価額を用いるため客観性が担保されやすく、税務署も認めやすい手法です。計算も明快なもので、土地・建物それぞれの固定資産税評価額の比率をそのまま売買代金に適用するだけ。追加コストもかかりません。

ただし、固定資産税評価額が実際の市場価値を必ずしも反映しているわけではなく、特に後述するリフォーム物件や築浅物件では建物の評価が低く出るケースもあります。

3.不動産鑑定士による鑑定評価

個別の物件状況をきめ細かく評価できる点が強みです。固定資産税評価額が実態と乖離している場合の論拠として有効ですが、鑑定費用(数十万円程度)が発生します。また、鑑定評価が税務署の判断と一致するとは限りません。後述の裁決では、納税者が鑑定評価を採用しても否認された事例もみられます。

裁判・裁決からみる税務署・裁判所の判断傾向

過去の裁判例・審判所の裁決を整理すると、以下のとおりです。

[図表]過去の裁判例と裁決
出所:筆者作成

図表をみると、税務署が固定資産税評価額を採用したケースで裁判所・審判所も税務署側の判断を支持する事例が多く(2・5・6・7)、固定資産税評価額を使った按分が税務上のスタンダードとして定着していることがわかります。納税者側の不動産鑑定評価が認められたのは一部(4・7)に限られており、鑑定評価を採用する際は相応の合理的根拠が求められます。

なお、1の裁決では税務署が契約書記載の按分を採用しており、当事者間で合意された低い建物金額が税務署に有利な形で尊重されたケースもあります。これは買主にとってはデメリットとなる事態であり、契約書に建物価格を記載する際は、合理的根拠のない低い金額を安易に書かないよう注意が必要です。

リフォーム済み・築浅物件での留意点

固定資産税評価額は一般に3年ごとの評価替えで更新されますが、リフォーム・増改築の内容が必ずしも評価額に反映されているとは限りません。また、新築時の固定資産税評価額は再建築価額の50〜70%程度を基準に算定されるため、築浅物件では市場価値に比べて建物の固定資産税評価額が低くなりやすく、建物比率が相対的に低く計算されてしまう場合があります。

このような場合には不動産鑑定評価の採用も選択肢の一つとなりますが、前述のとおり認められなかった裁判例もあるため、鑑定評価の信頼性(鑑定士の経験・手法の妥当性)や費用対効果を慎重に見極めたうえで判断してください。

利害が相反する売主と合意するには?

按分の根拠をいくら整えても、売主との合意がなければ契約書に適切な形で反映されません。前述のとおり、売主が消費税の課税事業者である場合、建物比率を高くすると売主の消費税負担が増えるため、売主には経済的なデメリットが生じます。この点を踏まえ、交渉の段階から按分の考え方を共有しておくことが重要です。

売買代金の按分を明示する場合は、売買契約書に「土地○○円、建物△△円(うち消費税□□円)」と明記します。消費税額のみを記載する場合には、逆算によって建物の価格を把握します。

また、契約書に按分の根拠資料(固定資産税評価証明書の写しや按分計算の明細書など)を保存しておくことで、税務調査の際に根拠を説明しやすくなります。顧問税理士と連携のうえ、契約締結前に按分の妥当性を検証しておくことが理想的です。

売買契約書に建物の価格が明記されていない場合には、固定資産税評価額の比率などで按分を行うことになります。あとから恣意的に変更できないよう、取引完結前に根拠と金額を固めておくことが肝心です。

中古物件ならではの「建物本体」と「設備」をわける、早期償却テクニック

建物と土地の按分に加え、不動産投資のなかでも「中古アパート投資」では、建物本体と附属設備をわけて計上する「設備細分化」をすることで、キャッシュフロー改善を目指すことが可能です。電気設備・給排水設備・空調設備などの附属設備の耐用年数は15年と、建物本体の耐用年数(木造22年、鉄骨造34年、RC47年)よりも短いため、早期に減価償却費を計上できるからです。

ただし、ここで重要な制約があります。過去の裁判例では、設備の「損耗」を考慮することが求められており、すでに耐用年数を経過した設備については残存価値がないとして計上が認められません。附属設備の耐用年数が15年であるため、それを超える築年数の物件(たとえば築20年・30年など)においては、附属設備としての帳簿価額はゼロとなり、別途計上することができないと判断されるリスクがあります。

また、設備費用を概算20%・30%などの割合で一律に計上する方法も、過去の裁判例で否認されています。根拠のない概算値では、税務調査において客観性を担保できません。

では、中古物件で耐用年数の経過していない設備価額をどのように算定すればよいのでしょうか。実務上の手順は以下のとおりです。

建築時の資料が入手できる場合

建築当時の工事費内訳書(建具・設備・電気工事などの内訳明細)をもとに、損耗を考慮した設備の価額を算定します。築年数に応じた償却相当額を差し引いた残存価値が按分の根拠となります。

建築時の資料が存在しない・入手できない場合

各市区町村が保有する「再建築評価点数計算書」を情報公開請求によって取得する方法があります。固定資産税の評価に使われる同計算書には、建物の各部位・設備ごとの評価点数が記載されており、これを用いることで附属設備の価額を客観的な根拠をもって算定することが可能です。この方法は手間がかかりますが、税務調査においても「自治体の公式資料に基づく按分」として説明できるため、客観性・信頼性が高い手法として活用されています。

設備細分化を検討する際は、顧問税理士と連携のうえ、物件ごとの状況に応じた対応を取ることをお勧めします。

長期的な中古アパート経営を支える「健全かつ適正な節税」のポイント

中古アパートの土地・建物按分は、キャッシュフローを最大化するうえで非常に重要な論点ですが、恣意的な操作は税務否認のリスクを招きます。本稿のポイントを整理します。

建物比率を高める目的と効果を正しく理解します。減価償却費の増加による所得税節税、土地借入利子による損益通算制限の軽減、将来の長期譲渡所得課税との組み合わせ効果を整合的に把握したうえで、投資判断に活かすことが重要です。

原則は固定資産税評価額による按分になります。過去の裁判例・裁決の多くが税務署・裁判所ともに固定資産税評価額を合理的な按分根拠として採用しており、実務上の基本手法となっています。不動産鑑定評価の採用は、固定資産税評価額が実態と著しく乖離している場合に限り、信頼性の高い鑑定士への依頼と費用対効果を慎重に検討してください。

契約書への記載と根拠資料の保存を怠らないようにしましょう。売主との合意内容は明確に契約書へ反映し、按分の根拠となる固定資産税評価証明書や計算明細を保存しておくことが税務調査対応の基本です。

設備細分化は根拠ある資料に基づいて行います。築年数が附属設備の耐用年数を超える物件では設備計上ができない場合があり、概算での按分も否認リスクがあります。耐用年数を超えない物件では建築時の工事内訳書や再建築評価点数計算書を活用し、根拠を明確にしたうえで計上することが欠かせません。

税務当局は按分の客観的合理性を厳しくみています。「適正な節税」と「過大な節税」の境界線を理解し、税理士と連携しながら健全な申告を継続することが、長期にわたる不動産投資の成功につながります。

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

大学院での税務会計の実証研究を通して、理論的に税金をとらえる思考を身につける。


国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業等の税務調査に従事するなど、中小企業から大企業まで100以上の会社の税務調査を行う。


その中で、不動産投資家、資産管理会社の税金対策が上手くいっていない現状を目の当たりにする。どうしたら改善するのかといったノウハウを蓄積するにとどまらず、自らも資産形成としてワンルームやアパートを購入し、不動産投資による節税を実践している。


これまでの経験と知見を生かし、不動産投資家、資産管理会社等の税理士としても活動している。


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