TOP>記事>節税目的の法人化…「中古アパート経営」で税務調査に狙われる「親族への役員報酬」と「私的経費」の境界線【元国税局・税理士が解説】

節税目的の法人化…「中古アパート経営」で税務調査に狙われる「親族への役員報酬」と「私的経費」の境界線【元国税局・税理士が解説】

中古アパート投資の規模拡大や所得分散を目的に、資産管理法人を設立するオーナーは少なくありません。しかし法人化は「手軽で万能な節税策」と捉えられがちですが、税務リスクがすべて解消されるわけではないため、むしろ税務署からは「親族への不当な利益移転」や「私的経費の混入」がないか、より厳しい目でチェックされるようになる点には注意が必要です。本記事では、元国税局の川口誠税理士が、資産管理法人を用いたアパート経営における税務調査の具体的な着眼点と、健全な法人運営のために守るべき境界線を解説します。

法人化によって税務署の目が厳しくなる?

中古アパート投資の資産管理法人を設立するオーナーが増えています。個人の所得税は累進税率が適用される一方、法人税は原則として比例税率で課税されるため、一定の所得水準を超えると、法人化によって税負担を抑えられる可能性があります。加えて、親族を役員や従業員として迎え入れることで所得を分散し、家族全体での手取りを最大化できるという点も、法人化が選ばれる大きな理由といえるでしょう。

しかし、法人化によって税務リスクがすべて解消されるわけではありません。むしろ税務署の視点は、個人の申告内容の確認に加えて、同族会社に特有の利益移転や役員報酬・給与の妥当性、さらに私的経費の混入など、法人化に伴うさまざまな論点へと広がるのです。

管理委託・売買など「法人移転スキーム」の仕組みと税務上の注意点

資産管理法人を設立する際、まず問題になるのが「すでに個人で所有している物件をどのように法人へ移すか」という点です。移転スキームには大きくわけて、売買方式、現物出資方式、管理委託方式、サブリース方式の4つがあります。

〇売買方式

個人が所有する不動産(土地は個人保有のまま建物のみとするケースもあります)を法人に譲渡する方法です。所有権が明確に移転するため実態が伴いやすい反面、譲渡益への課税や不動産取得税・登録免許税といった移転コストが発生します。

〇現物出資方式

物件を現物で出資して株式を取得する方法です。検査役による調査が必要となります。税理士等による価額の証明および不動産鑑定士による鑑定評価を受けることで検査役の調査を省略できる場合もありますが、費用や手間がかかるため、採用されるケースは多くないのが実情です。

〇管理委託方式とサブリース方式

物件の所有権を個人に残したまま、管理業務や転貸を法人が担うことで法人に所得を移す方法で、移転コストが小さく手軽なため、採用されるケースが少なくありません。しかし手軽である反面、実態が伴わないまま所得だけを移す形になりやすく、そこが税務調査で問題とされやすい部分でもあります。

税務署が確認する「対価の妥当性」と「取引の実態」

税務署がまず確認するポイントの一つが、「取引の対価が適正な時価に基づいているか」という点です。個人と法人が同族関係にある場合、取引条件を恣意的に設定することもできてしまうため、不動産の売買価格が適正かどうかは、しっかりと確認されます。

特に、個人が法人に不動産を時価の2分の1未満の価額で譲渡した場合、個人側では実際の売却価額ではなく時価を収入金額として譲渡所得を計算する「みなし譲渡」の規定が適用されます。それゆえ、法人への不動産移転では、売買価格の根拠を明確にしておくことが重要です。

管理委託方式を採用した場合、管理業務の内容に見合わず、一般的な不動産管理会社に支払う管理料と比較して著しく高額な管理料を設定していると、その全部または一部が個人側の必要経費として認められない可能性があります。

また、サブリース方式では、法人が個人から物件を借り上げる際の賃料水準が問題となりやすいです。この借上げ賃料を不当に低く設定して、法人に利益が偏っていれば、個人の側で本来受け取るべき賃料収入の計上不足を指摘されかねません。

さらに、空室リスクを法人が実質的に負担していない、あるいは入居者募集や契約・集金・クレーム対応といった転貸事業の実務を実際には個人が担ったままであるなど、一括借上げとしての実態を欠く場合には、転貸事業としての成立自体が疑われることになります。

要するに、税務署が最初に見ているのは「その取引に事業としての実態と経済合理性があるか」という本質です。名目だけ法人を通したとしても、実態が伴わなければ課税上は否認される可能性があります。

親族への「役員報酬・給与」の適正額と勤務実態の証明方法

法人化による所得分散の中核をなすのが、親族への役員報酬・給与の支払いです。しかしここは税務調査において問題となりやすい領域でもあります。

なお、役員か従業員かによって、報酬が認められる根拠も、実態を証明する方法も異なるため、両者はわけて考えなければなりません。役員は会社から経営を委任され自らの裁量で職務を担う立場であり、従業員は雇用され指揮命令を受けて労働する立場だからです。

役員報酬・給与が「不相当に高額」と判断される基準

役員報酬・給与が妥当であるかは、具体的には支払額が職務内容に見合っているかという観点から評価されます。役員給与については、まず、定期同額給与や事前確定届出給与など、法人税法上の損金算入要件を満たしているかが問題となります。そのうえで、形式的な要件を満たしていたとしても、役員の職務内容や法人の収益状況などからみて不相当に高額と認められる部分は、損金に算入できません。

不相当に高額かどうかを判断する際には、役員の職務内容、法人の収益状況、法人が一般の従業員に支払っている給与水準(社内での給与バランス)、同規模・同業他社の役員報酬水準などが考慮されます。つまり、単に株主総会の決議など所定の手続きを経ているだけでなく、その役員の職務内容や法人の状況に照らして、報酬額が相当な水準であることが求められるのです。

なお、役員そのものでなくても、役員の親族などで役員と特殊な関係にある使用人(いわゆる特殊関係使用人)への給与については、不相当に高額な部分が損金に算入されない場合があります。

一方で、一般の従業員であれば、担っている業務の内容や量に給与が見合っているかが問われます。ごく軽微な手伝い程度であれば高い給与は不相当ですが、入居者対応をはじめとする物件管理や経理事務を実質的に担っているのであれば、それに見合う相応の水準が認められます。

「名ばかり役員・従業員」を防ぐ客観的証拠の残し方

金額の妥当性を論じる以前の問題として、そもそも支払いに実態があるかが厳しくチェックされます。実務で問題とされるのが、名義だけで実態のない「名ばかり役員・従業員」への支払いです。

たとえば、配偶者を役員に就けているものの、実際にはなんの業務も行っていない場合です。職務の実態が認められなければ、法人側では給与の損金算入が認められず、受け取った親族側でも課税されるという、二重に不利な結果を招きかねません。

こうした事態を防ぐには、実態を裏付ける客観的な証拠を日ごろから積み上げておく取り組みが不可欠です。役員の場合は労働時間ではなく職務の遂行が問われるため、取締役会や株主総会など会議への出席と議事録、経営上の意思決定に関与した記録、職務内容を定めた委任契約や職務分掌などが証拠となります。

従業員であれば、指揮命令を受けて労働した記録として、業務日報や作業記録、タイムカードや勤務表、業務指示や報告をやりとりしたメール・チャットの履歴などが実態を裏付けます。「入居者からの問い合わせ対応」「物件清掃の手配」「経理入力」「内見立会い」など、誰がなにをどれだけ担っているかを、第三者から見てわかる状態にしておきましょう。

高齢者や遠方在住の親族への支払い

とりわけ調査官が着目するのが、高齢の親族や遠方在住の親族への支払いです。「80代の親が実際にアパート管理業務を遂行できるのか」「地方在住の子が首都圏の物件をどう管理しているのか」といった点に疑問が向けられることもしばしば。調査では、実際にその親族が業務を遂行していたのか、その業務内容や頻度、物理的に業務を行うことが可能だったのかといった点も確認されます。

税務調査への対策方法としては、遠隔でもできる業務(電話対応、ネット経由の入居者管理、会計処理など)を中心に担ってもらい、その実施記録を残しておくことが挙げられます。

どこまでが会社の経費か?旅費・交際費・車両費と家事按分の基準

経費性をめぐる問題は、資産管理法人の税務調査で論点になりやすい項目。判断の大原則は「事業関連性」です。

その支出が事業に関連するものなのか、また、金額や使用割合が合理的なものなのかが問われます。私的な支出が混入していれば、その部分は損金として認められず、場合によっては役員給与(賞与)と認定されて二重の課税を招く恐れも。

旅費/交通費

よく問題になるのが、物件視察・現地確認を名目とした出張です。地方や海外の物件を「視察」するという名目で、実質的に家族旅行を経費化しているケースは典型的な否認事例です。

区別のポイントは、視察の実態を示す記録があるかどうか。訪問した物件のリスト、面談した不動産業者の名刺や記録、撮影した写真、具体的な検討メモ、日程表などが揃っていれば事業性を主張できますが、観光地を巡っただけの日程では認められません。

交際費

取引先との会食や打ち合わせなのか、それとも私的な飲食・贈答なのかという線引きが問われます。誰と、どの物件・取引に関して会食したのかを、日付・相手先・目的とともに記録しておくことが大切です。

車両費

車両費・ガソリン代・保険料は、業務と私用が混在しやすい典型といえます。1台の車を管理業務にも家族の買い物にも使っているなら、業務使用割合に応じた按分が必要です。走行距離記録や運行記録から合理的な業務使用割合を算定し、その根拠を残しておかなければ、按分そのものが否認されかねません。「なんとなく7割」では通用しないと考えたほうがよいでしょう。

自宅兼事務所の家賃

自宅兼事務所の家賃・水道光熱費・通信費についても同様で、事務所として使用している床面積の割合や使用時間などの合理的な基準で按分します。たとえば、2LDKの一室しか事務作業に使っていないのに家賃の80%を経費計上するといった過大按分は、否認される可能性があります。

事業用と私用の資金は明確にわける

また、個人のクレジットカードや現金での立替えは、事業用の支出と私的な支出の区別が曖昧になりやすい点に注意が必要です。法人の支出を法人名義の口座やカードで完結させ、事業用と私用の資金を明確に分離することは、税務調査で不要な疑義を生じさせないためにも欠かせません。

元国税局・税理士が助言…税務調査当日の対応と事前準備

税務調査は、通常、事前通知から始まります。通知を受けたら、まず帳簿・証憑・契約書を整理し、指摘されそうな論点を洗い出しておくことが肝心です。総勘定元帳、請求書・領収書、賃貸借契約書、管理委託契約書、役員報酬に関する議事録、勤務実態の記録などを、いつでも提示できる状態にしておきます。

調査当日に調査官が着目する質問には、一定の傾向が存在します。

「この役員は具体的になにをしていますか」「この出張の目的と成果はなんですか」「この車は誰がどう使っていますか」など、いずれも実態と事業関連性を確認するための質問です。これらには事実に基づいて、簡潔かつ正確に答えましょう。聞かれてもいないことを話しすぎると、かえって新たな論点を提供してしまうこともあるため、注意してください。

また、記憶が曖昧な事項について推測で答えるのは禁物です。「確か〇〇だったと思います」といった曖昧な回答が、のちの事実と食い違えば信用を損なう可能性があるからです。わからないことは「確認して後日回答します」と伝え、正確な事実を確認したうえで回答するようにしましょう。

調査当日に避けたいのが、指摘内容を十分に確認しないまま、その場で安易に妥協したり、修正申告を約束したりする行為です。調査官から指摘を受けた場合でも、まずはその根拠や事実関係を確認し、納得できない点については、こちらの主張とそれを裏付ける資料を示して説明することが大切です。

こうした場面では、顧問税理士の立会いが大きな意味を持ちます。特に、税務調査の実務や調査官の着眼点を理解している税理士であれば、質問の意図を整理し、必要な資料や主張を適切に提示するうえで有効です。事前に、想定される指摘に対する反論材料として、勤務実態の証拠、出張の事業性を示す記録、経費の按分方法を裏付ける資料などを整理しておけば、調査にも落ち着いて対応できます。

なお、準備段階で誤りに気づいた場合には、更正等を予知する前のできるだけ早い段階で、自主的な修正申告を検討することが重要です。過少申告加算税は、調査通知後であっても更正を予知する前に自主的に修正申告を行えば軽減されます。修正申告のタイミング次第で加算税の負担は変わるため、早めの対応を心掛けてください。

実態・妥当性・証拠を備えた健全な法人運営を

法人化は、所得分散や税率差の活用など、アパート経営の規模を拡大するうえで有効な選択肢となります。一方で、個人と法人とのあいだの取引、親族への役員報酬・給与、法人経費と私的支出の区分など、法人化によって新たに注意すべき税務上の論点も生じます。

こうした税務リスクを避けるための共通原則は、突き詰めれば「実態・妥当性・証拠」の3点に集約されます。

  • 取引や支払いに事業としての実態があるか
  • その金額や条件が経済合理性のある妥当なものか
  • それらを裏付ける客観的な証拠が残っているか

この3点を意識して法人を運営することが求められます。

認められる節税と、税務上問題となる処理をわけるのは、「実態と合理性」です。実態を伴わないまま所得を移そうとすれば、税務調査でその実態を問われることになります。これに対し、実際の業務や取引に基づいて適正に処理し、その実態や合理性を裏付ける記録を残しておけば、税務調査においても適切に説明することができます。

だからこそ、法人設立の段階から契約書・規程・記録の体制を整え、日常的に証拠を積み上げておくことが大切です。税務調査を特別な出来事として捉えるのではなく、普段から「第三者に説明できる経営」を意識することが、同族法人でアパート経営を続けるうえで重要な税務調査対策といえるでしょう。

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

川口 誠氏(MK Real Estate 税理士事務所 税理士)

大学院での税務会計の実証研究を通して、理論的に税金をとらえる思考を身につける。


国税局では高度な調査力が必要とされる調査部において、10年以上にわたって上場企業等の税務調査に従事するなど、中小企業から大企業まで100以上の会社の税務調査を行う。


その中で、不動産投資家、資産管理会社の税金対策が上手くいっていない現状を目の当たりにする。どうしたら改善するのかといったノウハウを蓄積するにとどまらず、自らも資産形成としてワンルームやアパートを購入し、不動産投資による節税を実践している。


これまでの経験と知見を生かし、不動産投資家、資産管理会社等の税理士としても活動している。


幻冬舎GOLDONLINE 紹介ページはこちら


関連記事

  • 需要増!アパート経営で「外国人入居者」とのトラブルを防ぐ方法【弁護士が解説】

  • アパート経営における「減価償却」の基本的なしくみと計算方法【税理士が解説】

  • 「インボイス制度」が始まったが…未登録のアパートオーナーに訪れる、重大なリスクとは?【税理士が解説】

  • プライバシーを守ってくれ!目隠設置義務、法律ではどう規定されている?【弁護士が解説】

サイトについて

アパート経営オンラインは、堅実・健全な不動産賃貸経営業をナビゲートする情報メディアを目指し、既に不動産を経営されている方、初めて行う方に向けてお届けするサイトです。
様々なことに向き合い、改善するきっかけとなりますようアパート経営オンラインでは、成功事例や失敗事例を交え、正しい不動産の経営方法をお伝えいたします。

メルマガ会員募集中

こんなお得な情報が届く!

  • 記事公開などのサイトの更新情報
  • アパートローンセミナーのお知らせ
  • その他お役立ち情報など

メルマガ登録